いびつの結晶化
触れたらすべてが変わってしまう
遠くにあって淡く切ない
薄氷を花と偽る
横顔のくらがりの月
灰白色の個体番号
雫石と泥月毛
おなじ音を持つ異形
緩めた指さきの儘
永久機関の砂時計
ひなた雨の庭より
陽当たりのわるい夢
遣る瀬なくまたたく透明
静謐な容の破片
月蝕の変種
精彩を図る物差し
どこにもない柩の匂い
才あるものの劣等
あなたは粉雪の匂いがする
つめたい指のひとのやさしさの証明
やわらかな瞼を裂く顕性
永久影の手触り
なまぬるい熱は気味が悪い
ころがした飴を噛まれる
心許りの疵ばかり
月々のささくれ
誰のものでもない切先の権利
ただ一つではない方の暦
剥がれ落ちた怜悧を撫でる
うつくしさを研ぐ呪い
物語の中の君が擦り減っていく
眼差しの満ち欠け
灰篩のコーティング
ほどけない火のかたわら
下瞼にかかる等星
綻びにかたく結ぶ焦熱
うつくしさで翳す正当性
やわらかい手つきで奪ってくれ
朝になったら泥々のぐちゃぐちゃ
ただ過ぎた日々にもずっといる
いつかとは遠ざかる季節のこと
灰塗れの世界は目覚める
傷つけた話
潜性のビオトープ
黄昏に待てど暮らせど
正論で暴くひとのかたち
誰もいない心臓に招いて
遠ざかるえいえんに命を与える
月と陶鬱のかんばせ
沈黙の結び
誰かのてのひらで物語は変容する
月よりも星よりも近いところで
神も化け物の一つ
未来視の単眼
天と地と炎のあいだ
ひとりとひとりの息遣い
神様の肋は欠けない
秋を濁す銀木犀
あなただけなかったことにできない
毒として潔癖すぎる
幾つもの夜に幾つもの名前があるように
与えること、許すこと、手放すこと
ちいさなちいさな犀利
吠瑠璃と凍傷
苦いにび雲を纏う
奪われた春がすぐそばにいる
遍く世界に示された存在
天網をすり抜けた驟雨
つたない魂の戯論
ぐずぐずの内傷が叫んでいる
蝶結びのコンプレックスハーモニー
うつくしくひかるものの嗚咽
薄いまどろみの花床
火と鋼の機微
いかにも心臓のありそうなところ
ぬるい災いに溺れないように
月の偽称
満ちない月日は数えない
夜のすべてを見たこともないくせに
どこかに行けるならもうここにはいないはず
夜のまぶたを閉じても君がいる
醜く、くるしく、情けない、君のことは
魂にしるしはないから代わりに渾名をつけてあげよう
本当のことはまだ触れない
まばたきの刃毀れ
さみしいのは誰のせいでもない
欠落をうつくしいと呼ぶ悪いくせ
お前の嵐を花に例えたりしない
眼底に押し寄せるさざ波
ただ一つ、ただの一つ、たった一つ
雲間にて刺す
終着の地獄をゆるさない
吐き出した冬を噛む
繊細な玉鋼はさわり心地がいい
真夜中にきみの輪郭が騒ぐ
なまめかしい鋭利と寄り添って
愛するということはどうしようもない
目蓋のうらの凍原は言う
君はゆっくりと輪郭を失う氷のように
うつくしくないかたちでもよかった