#1
見ない言わない知らせない
さみしい夜に会いたい
君はいちばんのお気に入り
あなたに慣れていく間に
運命は曇りがち
だれでも好きなひとと
小骨とボタンと刺繍糸
ただ愚かにはなれなかった
手折らなかった花のそれから
天使をどぶに捨てた
ひかり合わせ
しかし猫には待てという
ここに育てた絵空事
あなたのつくる悲しみ
やさしくないと言ってくれ
恋は息継ぎ
酸素のようにはなれません
溺れないための失敗
愛のない何かの探り合い
酸いも甘いに変えられる
隙間を埋めるものがあたたかさではなくても
まぼろしを描く
つめたい指に縋らせないで
いつか泡になって消えるために
孤独の循環
誰かのためには息ができない
決着はひとりとひとり
偶像は涸れたりしない
声は檻のかたち
ぼけた境界が美しいのです
#2(2014年カレンダー『四季ノ歌暦』より)
夢をまちがえたみたい
新しい朝を見つけたかった
かなしみは冬の名残
変わらないものだけを連れて
ひとりと野良と人でなし
同じ冷たさを探してる
簡単に塞がる傷ばかりつける
もしもでは一つも失わない
わたしのために欠けてください
うつくしの影
月の満ち欠けるように
知らないことで塗り潰して
まぶたの裏側でいつでも会えたけど
透明をぬぐう
思い出は割れもの注意
ジグソーパズルの地図
自傷航路
方舟で行けるところまで
真昼の静かに月が出る
囁きの縁取り
ここは孤独のないところ
熱に辿り着いたら
見えない答えを教えたい
夏が終わるまで忘れないでください
心にもない寂しさに
触れたら崩して整えて
やさしい運命に会えますように
おやすみはお別れの呪文
呪いもかけずに手放すなんて
お月さまと二人
涙は美味しくない
暗くなったら恋をして
神様になりたくなかった夜のこと
ざらざらの思い連ねて
物語の手触り
まばたきするたび色褪せる
#3(2015年カレンダー『四季ノ歌ごよみ』より)
剥片がきみを透かすので
永遠を切り離して
目蓋を溶かして終わりにしよう
淵の群星
かみさまの輪
いつか此の岸に辿りつく
さよならの引力
手のひらからすべり落ちる今日を縫い止めて
あなたを忘れてあげないよ
伝えきれないてのひらの熱
春風と指遊び
眦が乾けばもう終わり
コンパスの環は少し窮屈
思い出を語るように触れたがる
朝日に溶けたすべてのこと、いつか忘れる日々のこと
きみのための水晶宮
永遠を巡る回遊魚
神様みたいにつめたい指だね
恋に溺れるだけでいい?
臆病者の指切り
触れただけで夜は滲む
喉元を過ぎた引っかき傷
生ぬるい手の詰め合わせ
ただ眠る日々に疲れたら
コップ一杯の残留思念
カーテンの隙間で魔は揺れる
ガラスの靴を履く暇もない
墓標はステンレス
傷も思い出もてのひら一つ
かなしいはつくれない
ふやけた硝子と凍る野火
静寂の縫い目
いつかうつくしくなる物語
あなたは星の傍にいる
此岸の花実
神さまになった朝だから、もう5分だけ寝かせてください
#4(2016年カレンダー『四季ノ歌暦』より)
夢の隔壁
愛せないなら眠ってしまおう
断片を抱きしめるのはもう終わり
ひなたのまどろみ
四季の縫い目
いつか月を閉じ込めたりする
部屋の隅にて欠けていく
どんな色のリボンをかけたら
湖底の雪解け
あなたが眠りについたあと
特別になりたいひとの群れ
夕焼け前交差点
繭を恋う
一度きりの空白
24時、私の中にいるあなた
水無月の暗いところ
空気と一緒に閉じ込められたい
呪ったはずの次の日にふと幸せを振り撒いたりする
幽霊の午睡
見え透いた青
二度目のまばたき
真夏の空中分解
地に足の着いた永遠
さよなら不可逆
星の彩度
運命がほどけないように
うつくしあればよい欠損
世界の終わりの良い日和
君はいま永遠から目覚めたばかり
遠く触れるにはもう遅い
嘘をつく器官
宝石のようなただの眼球
灼き付いたら二度と離してくれない
繰りかえし黄金色の影
疾うに傷んだ秒針の中
悲しみやすい物語