4

やさしいひとのやわらかい嘘
泡々のこの指とまれ
透明な言葉、からだ
夜間ゆびさき不明
今も昔もまぼろし
お願いに至る病
いつでも泡になるために
不定の春をいくつも並べて
雨粒を取り零す
嘘つきから嘘を取り上げる
神さまとの断絶
愛してるを傷にしたい
どこにもない心臓のゆき先
こわれないことば
お前には悪夢をあげる
ほんものの夢の中
綿菓子の呪い
ひかりとおり過ぎるもの
君のための練習曲
神話に触るみたいに
ふやけるまでが夜だから
混ぜこぜの色彩環
昼夜の淡いに欠けてゆく花
喪失に宿る青
ひたむきな天使たち
切手にはふぞろいな羽毛
遠い国のかみさまのこと
月からの伝言
発火する凍原の声
春の獣

5

やめるとき、いなくなるとき
不安を縫って食べて
色彩の中に閉じこめる
くるしいから魔法じゃない
彼方から降る歌
遠い海に褪せていくまで
月の秘密をおしえてよ
天使視点
花売りとパラシュート
荒野にて君との時間
夜がいくつ壊れても
秘密をまぜても美味しくならない
ふたりでは始められないこと
寝ても覚めても神さま
濡れた踵のままで
月がどうしても君にあれこれする
失くしたファンタジー
いつかを待つのに疲れたときは
病に似合う花の色
透けて消えるまばたき
わたしを不幸にしたかったなら
幸福の贄、生煮えの糧
恋からの退化
苦し紛れの雨性
砂糖に触るとわからなくなる
愛に似た災い
いつかあなたになれますように
ばらばらのさよなら
シーツに挟んだあいうえお
ふやけても不夜
夏になる前の魔物

6

雨降らし劇団
つめたくまどろむ粒子
花殻のおがくず
子守唄がなくても眠れるなんて
神様の言語
この街が海になるときは
ことばとこころ千回目
白皙とはぐれる
絶対に正しい孤独
火に翳す不感症
永遠までは泣かないで
四隅の雨粒
愛なきかわいい悪口
未知の光体
青と灰をまぜて永遠をつくる
かなしんだりする隙間
ねむりの浸水
溶けないアイスを紡いでよ
いつか忘れてしまうくらい沢山の約束
言の葉の色彩学
蝶を結ぶシルエット
幽体の輪郭
記憶には色素がないから
空白のまま冷凍保存
ひとりを分け合う女の子
雨に宿る物語
もともとはあなたの一部だった
秘色を束ねて
藍に纏わるエピローグ
箱庭には降らない話

7

しらない世界を燃やす炎
結晶と炎症
まぼろしを整える
ミルクに沈めたらそれでおしまい
一つずつ褪せていく季語
さよならを後ろから数える
二人きりでは願いごともかなわない
白けた凶暴
言葉にしようとするから悪い
夏を齧る
ふたつめの呪い
いろいろの下の死角
ざらざらの上で丸まる
ばらばらの心臓拾い
難しいことばが夢に出てくる
魔物と呼ばないで
きみが熱帯の中心
二足歩行、海をゆく
夕べには花だったのに
異世界の車窓に降る
くずれていく神話
身代わり角砂糖
レンタルプラネット
悪意の次に甘いもの
嘘つきのつかなかった嘘
灰になつかれた創世
流星にまみれた瞳のひと
君が生みなおす夏
てのひらで育てた火種
運命を宝石にして胸に飾るなら
心臓が焦げるにおいがする

8

身近な地獄
この世のすべてさようなら
天井から蜃気楼
から回る金色の装置
しなやかな罪の色合い
明日ひみつがやってくる
夜を解剖する
癒えるような傷じゃだめ
いつかうつくしくなる保証なんてないのに
昼のない世界でもよければ
波間での喪失
幻想の相貌
心臓にある裂け目
隙間から海の気配がする
あやとり悪魔
ダイヤモンドのままごと
すべてねむたい眸がいけない
傷をつないでつくった話
冠の影が届くところ
もう動かない切っ先のまま
かんたんな言葉で朝を呼ぶ
獣の瞳で相対
スパンコールを分解できない
自分のために息をする強さ
ひなたに引きずり出してやろうか
270度の日々について
掌に祈りがわだかまる
ここは呼吸をするところ
どうかあなたの神様にしてください
嘘まみれの約束を信じてしまわないように
前世の話はもうしない

9

∞を冠する双子
百年のスノードーム
紅茶には一匙の透明
茨の中にあなたがいた
電子にまみれて羽化する蛹
真珠になりたかった種子
文字盤の上で寝ないでください
失くしたと思っていた心臓
色と色をすり抜けて
季節から外れた雨を連れてきて
魔法には種がある
こんなところで光ったところで
壊しやすい呪いと壊れにくい呪い
ドラッグレスドーナツ
天文学者はもういない
天使にも獣にもなれない
不毛でやさしく包まれる
泥か水晶
幽霊でもいいというのは嘘
贋物の描く金色
秘密がスパイスになるなら
血液にかたちなんてない
心臓を飾るオーガンジー
残らない記憶のあらすじ
踵に仕舞われた魔法
ときどき琥珀のように
光体を纏って生まれたこども
月の海でなら裸足になれたね
やわらかい感情でとどめを刺してよ
この間引かれた物語

10

アダムとイヴだったころ
わたしの中の波のざわめき
胸が綿菓子みたい
嘘さえ預けてもらえない
楽園の枯葉の下
不器用だから泣きながら眠れない
失くした靴紐がどこか遠いところで見つかる
午後が狭い世界
どんな色の服も似合わない
感傷を飾る窓辺
無傷で息をするくらいなら
はしたないスカートの縁
やさしさと欺瞞の天秤
たとえ話だけ上手にできる
どいつもこいつも幽霊のふりをして
月ばかり見ていると大事なものをなくしてしまうよ
夜は永遠からいちばん遠い
血と肉と骨でつくった運命
罪もなく罰もなく、ただなにもない
朝焼けに指がさみしくなる
泥濘の淡い暮らし
さみしさの定点観測
とうとういびつにしかなれなかった
浅瀬で溺れておしまい
窓越しになら触れるまぼろし
おやすみなさいの祈り
月の色がわからなくなったら
思い出が美しければそれですべて正しい
めでたしから裏表紙まで
傷一つあれば本物になれたのに
ふたりという機能不全

11

時おり呪いが透きとおる
さいわいを敷きつめた熱病
ソーサーの上でうとうと
儚い夜のための黄昏
午後3時の冬眠
ギンガムチェックにまち針一つ
白詰草はカレンダーの中
アスファルト・ロマンティック・バレエ
えいえんという音に騙される
眠れない透明のために
靴擦れが治らないような月日
天使のためのフェイクファー
苦いだけのにせもの菫
チョコレートひと欠片分だけ優しくなろうとしたけれど
泣いたつもりで朝を待っていた
眦のスパンコール
悪い子のためのパレード
フリルとレースとサテンの邂逅
しなやかな指の殿
夜光虫のまばたき
もう会えない淡い微睡み
金星の検体
さわれない聲の手触り
頬に落ちる影のきれはし
縫い止めるカリグラフィー
幕間、君のための椅子
花と傷、触りたい方を選んで
標本として生まれていたらきっとうつくしくなれたと思う
プリーツスカートはさよならの形のまま
死神のやわらかい眼差し

12

たったひとつの幸いがあるために
偶像観察日記
色とりどりの火の照らす
波うつサテンの鰭々
星も砂も砕ききったあと
褪色の日、絆されるさざ波
ひとしく分けて与えた夕べ
うつくしさの軌道上
皮下の独白
傷の暗号
虹彩のなかにいる
白濁でつつまれた夢のなか
ねむたげな明滅
えいえんのための摩耗
白昼を帯びたあなたの博愛
誰も見ていないならどんなこともできる
魔法使いだって朝までは待ってくれない
点火/フローレスナイト
線状にくれる琥珀色
眼底におびただしいひかりの群れ
あの日々はかつての名のもとに
まどろみとばらばらの掌握
胸底でまばたく梨礫
鍵穴は半分の靴下のなか
ひかりを帯びて生まれたはずの
路傍にばらまく火の粒子
今日がもし白亜紀ならお別れを言えたはず
天国における不純物
えいえんをうつくしく形容しようとするのが悪い
偽色による運命的なきらめき
あなたはまぶたを閉じていればいい

1

くるしむと蕩ける
凍てつく月曜日の盲者
真秀を煙に巻く
かたみちの車窓の片
曇硝子にはまぼろしが映る
巡りあい降りつもる淡い
天国も地獄もそれほど
不鮮明な焦燥
泥濘のじゃれ合い
寂しい冬の集合体
天辺のうしろで待ち合わせ
傷つきやすいひとの群れ
やさしさと温もりに殴られる
焦土、まぶた、残滓の風合い
息をする、星を見る
命をほどく、日々を縫う
思い出をひらくと鮮血みたいに温くまばゆい
だいたい心臓くらいの重み
日に日に夜はやわらかく
揮発性睡眠障害
真冬の溶けだすグラデーション
えいえんを歩く速さで
素粒子の一生
不滅ののろい
一から百まで撫でなくてもいい
どこかのだれかに寄り添うなにか
意味もなく傷つく、分け合って傷つける
わかりにくいおばけのしわざ
天使のつもりで触れあって
おだやかな日曜日の信徒
とおくの星がまばたいて忘れたなにかがふと光る

2

squall in quartz
喪失のための秩序
流星雨の座標
不誠実な魔法を使う
削られた季節もわからないほど
遠浅のクレバス
眼差しと息遣い
kiss/傷の素描
昼の夢は果実の匂い
天国の荒野、炎の夢
またたく星ほど焦げやすい
信じていたのか祈っていたのか
えいえんって3回唱えてえいえん
ふたりはふたつに分かたれた
あの凍りの日の戴冠式
無色透明をやさしさというのなら
いつも傷つけられた貌をしている
さよならの淡いの下
monotone harmony
吐く息すら濁る
かつての稚拙をそう呼ぶ
地獄まで来て困らせないで
遠ざかる羽ばたき
crack/記憶のうみ
薄霜色は呪いのかさなり
あなたでは硬度が足りないみたい
白日に浸かりすぎたあの日々
今ならえいえんを上手に交わせる

3

祝福は春の底より
ひかりの骨格
もしもをやわらかく言い変える
春眠のゴースト
すぐ側のまどろみが伝播する
うしなったものコレクション
やさしさの奥行きのはなし
花曇りを象る
日常のなかにある羽化
さいわいは檸檬の香り
肌とあなたのあいだ
溶けあうために繊細すぎた
なくしたものは夢のなかで見つかる
いびつな楽園が聞こえる
沈む・沁みつく・息を吐く
エンディングまでにできること
いつかといつかを繋ぎあわせたら
雨にたとえるものはもうない
百年後の食卓にて
せつない色のカトラリー
なめらかな四季の容れもの
指に絡まるありとあらゆる過去
祈られてもほんとうのことはわからない
物語のコラージュ
いついかなる時もさみしいひとのために
半月が頬を照らしてくれる
呼吸のあいだにとけない言葉を
天使だから羽を休めていただけ
くすんだり揺れたりしながら
ifをなくしても吹く風はうつくしく
不自然なHeavenlyを束ねた